フランス料理の見取り図
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フランス料理は、ひとつの様式ではない。 それは、北の酪農、海辺の魚介、山岳地帯の保存食、南のオリーヴオイルと香草といった、 土地ごとの条件の違いから生まれた複数の食文化の総体である。 まずはその前提として、フランスという国土の広がり、気候の多様性、そして地方という単位の重みから見ていきたい。
六角形の国土が生む、多層の食文化
フランスは、ピレネー山脈、アルプス、中央山塊を抱え、さらに大西洋、英仏海峡、北海、地中海に面した国である。 北から南へ、海から山へ、平野から高地へと環境が大きく変わるため、食文化もまた一様ではない。 地域ごとに手に入る食材、保存の知恵、油脂の使い方、酒との結びつきが異なり、それぞれが地方料理として定着してきた。
つまり、フランス料理とは“中央”が生んだ料理ではなく、まずは各地で育まれた料理の集積である。 パリはその集積地であり編集地ではあるが、起点はあくまで地方にある。
気候の違いは、そのまま料理の違いになる
フランスの地方料理を読むうえで、気候は欠かせない。 どの油を使うのか、何を保存食にするのか、何が日常的に採れるのか。 その差は、まさに気候と風土によって決まってくる。
地中海性気候
プロヴァンスやルーションに見られる気候。冬は温暖で、夏は高温・乾燥。 オリーヴオイル、トマト、香草など、光の強さと結びついた料理文化が育つ。
海洋性気候
ブルターニュやノルマンディー内陸部に多い気候。 雨と湿度に支えられた牧草地、魚介、乳製品の文化が豊かで、海の影響も濃い。
大陸性気候
北東フランスに見られる、暑い夏と寒い冬の振れ幅が大きい気候。 保存、発酵、加工の知恵が食の骨格をつくり、肉や加工品の存在感が強まる。
山岳性気候
アルプス、ピレネー、中央高地などの高地に見られる気候。 冬が長く厳しいため、チーズやシャルキュトリーなど、保存を前提とした食文化が発達する。
地方料理を読むなら、行政区分よりも風土の単位が重要になる
16〜17世紀にかけて、フランスはイタリア・ルネサンスの影響を受けながら文化的な成熟を進めると同時に、 王権のもとで中央集権化を強めていった。革命後には行政区分も再編され、現在の県や地方の制度へとつながっていく。
しかし、地方料理を考えるうえでは、行政の境界線だけでは十分ではない。 なぜなら食文化は、制度よりもむしろ、長い時間をかけて形成された気候・交易・宗教・農業・生活習慣のまとまりによって育まれてきたからである。 その意味で、旧体制下の州区分や歴史的地域の感覚のほうが、料理の個性をとらえやすい場面が多い。
風土が食材を決める
乳製品、魚介、香草、豆、肉、山の保存食。まず何が採れるのかが違う。
歴史が技法を定着させる
王権、交易、移住、戦争、宗教。歴史の蓄積が、食べ方や調理法を地域ごとに固めていく。
都市が再編集する
地方で育った料理は、やがてパリのような都市に集まり、レストラン文化として再編成される。
